技術を生かし、多くの人に使ってもらえるウェアラブルを展開したい――エプソン販売 鈴村氏に聞く:PULSENSEとウェアラブルの未来(2/2 ページ)
PULSENSE開発秘話
―― PULSENSEについてお伺いします。開発で大変だった点はどんなところでしょうか。
鈴村氏 PULSENSEは、商品化できるまでに4〜5年かかっているんです。ヘモグロビンの流れにLEDを当てて脈拍のデータを取るのですが、当然いっしょにノイズを拾うんですよ。拾ってしまうノイズの中から、ヘモグロビンの動きを切り出すんです。その技術はYouTubeに動画でもアップしていますが、これとこれはノイズ、これは本当の脈の動き、とデータを切り分けて精度を高めるための研究開発に4〜5年かかっているんです。
技術部門は、最初は無理だと諦めかけたそうです。こんなもので脈なんかとれっこないと。こういうセンシングの技術では正しい脈にならないから諦めようなんて話があったくらい大変だったと聞きました。
―― それは過去に蓄積されてきたエプソンの技術だけでは足りず、さらにそれを超えなくてはいけなかったと。
鈴村氏 そうです。単に光を当てて動きを取るだけじゃないですからね。実際は運動している状態で腕にPULSENSEを付けていただくわけですから。激しい動きで、しかも汗もかきますし、情報にノイズがたくさん入ってくるわけです。そのノイズ情報を除去して正しい波形を残す、その技術が相当ハードルとしては高かったんですね。
バッテリー寿命の問題もありました。まだ現状でも十分満足だとは言えないと思いますが、常に測定し続けながら、バッテリーの寿命を持たせつつ、1日1回の充電にとどめた。精度を出しつつ、なおかつ省電力に作るところは技術的に結構難しいところでした。
―― 省電力化の技術というのは何が効いてるんですか。
鈴村氏 まず、すべての部分の回路設計で省電力化させています。あとは精度が上がることでロスが減ったという面もあります。無駄にセンシングにいかなくても正しい情報が抽出できるようになるので効率が上がり、余分な電力を使わなくて済むわけです。PULSENSEは4秒に1回のペースで測定していますが、4秒に1回光を当ててるわけじゃないんです。4秒に1回の脈を出すために、何回かセンシングをするんですね。その部分で無駄がなくなるんですね。
―― デザインについてはいかがですか。今PS-500Bはブラックのみ、PS-100はブラックとターコイズの2色が用意されています。このほかに色を出す予定であったり、ラバー以外の素材を使ったりする可能性はありますか。
鈴村氏 市場の反応を見てから考えたいですね。脈を取るためにセンサー部分を腕に圧着させる必要があるので、あまりルーズにはできません。だからメタルバンドにはしづらいんですよね。でもデザインも含め、いろいろ検討したいところではあります。
PULSENSEの課題
―― 今のPULSENSEやWristableGPS、そしてウェアラブルデバイスに対して、感じてる課題はありますか。
鈴村氏 もう課題だらけだと思っています。商品そのものもそうだし、商品をどうやってお客様に知っていただくかというのも課題だし、また誰に向けてどういう商品を開発していくかというのも、正直まだまだ勉強の余地がたくさんあると思っています。今回出した商品のフィードバックをしっかりいただいて、それをしっかり商品に反映させていくっていうことがすごく重要だと思いますね。
―― 一利用者としては、コーチング部分も気になっています。最初はデータが取れることそのものが面白いんですが、そのうちそれが当たり前になってくると、どういう意味なんだろう、これはいいのか悪いのか? というところが気になってきます。見てどうしていいか分からないと、続かないと思うんです。
鈴村氏 おっしゃるとおりですね。ゴルフ用のスイング解析装置でも、自分のスイングが分かったとしても、正しく打つには何をどうしたらいいのという部分が問題。そこに踏み込んでいかなくてはいけない。
PULSENSEにしても同じだと思います。生活習慣が見えてきたとき、こういう風に改善しましょうというアドバイスは必要ですね。あとは続けるために仲間を集めて、コミュニティを作るとか。お互いの記録を見せ合って情報交換したり、刺激を与え合ったりなどできたらと考えています。
今はすごく生真面目につくってしまってますね。楽しくエンジョイしましょうというよりは、まずは精度のよさにフォーカスしてしっかり体を鍛えましょう、というアプローチになっていますので、今後順次対応できたらと思っています。
―― 今は達成状況がLEDの数や色で分かるくらいですね。もっと褒めてほしいと思うことはよくあります(笑)
鈴村氏 LEDって、うまく光を組み合わせると、いろんな色を発色させられるんですよね。今LEDの光をそのまま見せるようなストレートな作りになっているじゃないですか。そのあたり、もうちょっと工夫すると虹色に光らせることも可能です。そういうのは考えたいですね。これからお客様の裾野を広げて行く中で、いろいろと面白いエンターテインメント性は持たせるようにしていきたいと思っています。
―― サイズやデザイン、装着方法についてはいかがでしょうか。
鈴村氏 サイズについてはバッテリーとのトレードオフになりますね。ある程度の大きさは必要になってくるので、腕時計型として考えていくという方向もあるかなとは思います。なにせセイコーの時計を作っている会社ですからね。そういう強味も生かしていけます。
ただ、ウェアラブルデバイスって方向感がまだはっきり見えてないんじゃないですか。ニーズがいろいろな方向に向かっているので、各社さんがいろいろトライアルをされている状態。まだ本命はどこかは分かりません。だから面白い時代でもあると思います。そのうちどれが本命視されるのか、私も気になりますね。
さまざまな人に使ってもらえる商品展開を目指す
―― 今後のウェアラブル機器に対する取り組みは、どういった方向を目指すのでしょうか。
鈴村氏 エプソンらしさを出しながら、ITリテラシーや性別、年齢に関係なく使っていただける品ぞろえ、商品展開をしていけたらと考えています。
―― そのエプソンらしさの1つが「高精度脈拍センサー」ということだと思いますが、機能を分かりやすい形で伝えるのは大変ですよね。実際付けてみて、初めて理解できるよさが多いです。
鈴村氏 おっしゃる通りでね。実は私も、最初はPULSENSEのような機器にはあまり興味がなかったんです(苦笑)。お盆休みの直前に試作機を渡されまして。最初はどっちかっていうと仕事だから、という認識で使い始めたんですが、付けてみたら面白くて面白くて。それ以来はまりましたね。「睡眠が取れる!?」「あ、俺無呼吸症候群じゃなかった、よかった!」から始まって。これだけ運動したらこうなるんだ、みたいなことも分かってきた。
特にスポーツしているわけじゃないんですけど、家の前が坂なんですよ。そこをたまたま自転車で上がったら、脈がすごく上がったんです。それが2週間くらい走っていたら、上がらなくなってきた。最初に登ったとき160くらい脈があったのが、2週間くらいたったら150台になったんですよ。心肺機能が強化されたんでしょうかね(笑) そうやって目に見えて分かってくると俄然興味がでてきますよね。そういう部分をどう伝えるかというのも大事な取り組み課題だと思っています。
―― 今のようなリストバンド型の活動量計にスポットライトが当たる前から、国内にはクリップタイプの歩数計はいくつもありました。そこには運動強度の「METs」(メッツ)を確認できるものが多いです。健康維持のためにある程度の運動強度を持った活動量が求められているということで、厚生労働省も「METs」を使った身体活動基準を策定しているわけですが、PULSENSEのセンサーなら、より正確に運動強度をMETsメッツとして表示できると思うのですがいかがでしょう。1週間の運動量が健康維持に役立つレベルかどうかをグラフィカルに教えてくれたら、それまで歩数計を使っていた層にも響きそうな気がします。
鈴村氏 確かに分かるでしょうね。次どういう方向にいくかという点ですごく参考になります。
―― 進化の方向性の1つとしてお伺いしたいのが、取得したデータの活用です。今のところPULSENSE Viewでしか見えないですが、今後APIを公開するといったことはお考えですか。
鈴村氏 可能性はあると思います。精度が高いということは、相当活用の領域が広いことを示唆します。ただ具体的なプランはできていないので、これ以上のお話しはできませんが、考えなくてはいけないと思っています。
健康志向は普遍的なものですから、スマートフォンの普及とあいまって、ヘルスケア市場はこれからどんどん伸びるでしょう。これからいろいろ考えていく必要があります。ぜひたくさんの要望をお伺いして、製品に反映していきたいです。
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