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ウェアラブルはディックの夢を見るか――ソニーのスマートイヤフォン「Smart B-Trainer」妄想ウェアラブルの午後

先日のCESで発表されたばかりのソニーのスマートイヤフォン「Smart B-Trainer」。「現在のウェアラブルの弱点」をカバーしたように思えるこの製品だが、思い出すのは――。

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ソニー「Smart B-Trainer」

連載:「妄想ウェアラブルの午後」とは

近年急速に普及し始めたウェアラブルデバイス。腕時計型やメガネ型などさまざまな種類が登場してきているが、それらが「人々の生活をどう変えるか」についてはまだまだ議論の余地が残されている。本連載では、製品のスペックや機能比較にとらわれず、ウェアラブルの正しい(?)未来を「妄想」することに全力を注ぐ。


ソニー「Smart B-Trainer」

 ソニーのランナー向けイヤフォン「Smart B-Trainer」は、先日行われた世界最大の家電見本市「2015 International CES」で発表されたばかりの新製品だ。単体でミュージックプレーヤーの機能を備え、心拍計やGPSなどの各種センサーも搭載している。ランニングの速度に合わせて最適なテンポの曲を自動で再生したり、心拍数のデータを読み取って「ペースが速すぎますよ」などの音声でコーチングをしてくれる機能も。

 その多くが「スマホ連携必須」のウェアラブルデバイスの中で、単体で利用できる点はなかなか魅力的(確かに、走りに行くときにはできるだけ余分なものは持ちたくない)。価格などは現時点では未定だが、2015年中の発売を目指しているという。

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ウェアラブルはディックの夢を見るか?

 使用者の身体データを計測し、自動で最適な音楽を選んでくれる――そんなコンセプトを聞いて筆者が思い出したのは、「情調(ムード)オルガン」というガジェットだった。SF界の鬼才、フィリップ・K・ディックの小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」に登場する、いわゆる感情調節マシーンとでもいうべき代物だ。

 ムードオルガンでは、特定のナンバーにダイヤルをセットして眠りにつくと、晴れやかな気分で目を覚ましたり、あるいは逆に意図的に暗い気分になってふさぎこむことができる。設定次第で、大らかな気持ちにも、絶望的な心情にもなれる。何よりも恐ろしいのは、ダイヤルをセットする気にさえなれないときのために、「ダイヤルをセットする気分になるダイヤル」まで用意されているということだ。


イヤフォンを着けてランニングに出発

「心拍数が高すぎます」の音声メッセージ

 近年、雨後の筍のように登場し始めたウェアラブルデバイス群を見て、ずっと気になっていることがあった。これらのガジェットを使いこなすには、センサーによって提示された各種データを「読む」力が使用者に強く求められるということだ。今日歩いた距離が分かった、心拍数が分かった、レム睡眠の時間が分かった――それで? もっと“より良く”振る舞うために、自分は具体的にどうすればいい?

 現状では、ウェアラブルデバイスとそこに搭載されたセンサーによってさまざまなデータの取得が容易になった一方で、そのデータを読み、活用する段階にまで多くの使用者が至っていない、というのが筆者の実感だ。そして、その点に対する解決策のひとつが、デバイスやサービス自体による「コーチング」であり「提案」であり「自動調節」なのだろう。

 取得したデータを基に音声でコーチングをし、最適な音楽をチョイスしてユーザーの気分を動かす。そんなインテリジェンスなデバイスの登場を心待ちにしていた一方で、自分を自分たらしめる感情までデバイスのコントロール下に置かれてしまうかもしれないことに、一抹の恐ろしさも覚える。ならば使わなければいい、と言うのは簡単だが、いつの日か「デバイスを使いたくなるようなコーチング」をされたそのとき――自分はどんな風に振る舞えるだろうか?

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