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インタビュー

技術を生かし、多くの人に使ってもらえるウェアラブルを展開したい――エプソン販売 鈴村氏に聞くPULSENSEとウェアラブルの未来(1/2 ページ)

高精度脈拍センサーを活用して、これまでより正確な運動量が把握できる活動量計「PULSENSE」を開発したエプソン。そのエプソンが見るPULSENSEとウェアラブルデバイスの展望を、エプソン販売の鈴村文徳氏に聞いた。

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 FitbitやJawbone、FuelBandといった海外製品をきっかけに、活動量計のようなウェアラブルデバイスが、2013年から注目を集め始めた。リストバンド型やクリップ型のデバイスで、歩数や睡眠サイクルといった活動を休みなく測定してくれるというものだ。測定データはBluetoothでスマートフォンに転送し、無料の専用アプリでチェックするというのが一般的。まだまだ普及しているとはいえないが、ガジェット好きや健康意識の高い層に取り入れられ始めている。

 こうした活動量計は、加速度センサーを用いて測定を行うのが一般的だが、最近搭載され始めたのが、脈拍(心拍)センサーである。今のところスマートウォッチへの搭載が中心だが、活動量計としていち早く導入したのが、エプソンの活動量計「PULSENSE」シリーズだ。PULSENSEは、1回の充電で1日以上の連続測定が可能なだけでなく、加速度センサーと脈拍センサーの両方を使い、精度の高いモニタリングができるのが大きな特徴。どんぐりの背比べ状態であった活動量計の中で、頭1つ抜けた製品として注目を集めている。

 エプソンというと、プリンタやプロジェクターのイメージが強く、ウェアラブルデバイスにも取り組んでいると聞くと、意外に思う人もいるかもしれないが、エプソンは新たな事業の柱の1つとして、ウェアラブルデバイス市場に取り組んでいる。エプソンはウェアラブルをどう捉え、この市場で同存在感を示していこうとしているのか。ウェアラブル機器に対する取り組みや、PULSENSEの開発秘話などを、エプソン販売 取締役 販売推進本部 本部長 鈴村文徳氏に聞いた。

鈴村文徳氏
エプソン販売 取締役 販売推進本部 本部長 鈴村文徳氏に聞く

ウェアラブルデバイスへの反響に驚く

――(聞き手:すずまり) 11月6日にPULSENSEの販売が始まりましたが、ユーザーの反応はいかがですか。

鈴村文徳氏(以下鈴村氏) まだ発売からそれほど時間が経っていないので、具体的なフィードバックはまだ多くないのですが、販売状況は初速としては想定よりかなりいいです。テレビCMを1週間入れさせていただいたというのもありますが、売上げ的には当初の計画を大幅に上回っています。

 PULSENSEだけでなく、ウェアラブル系の商品群は、GPSを搭載したランナー向けの「Wristable GPS」にしても、ゴルフのスイング解析が可能な「M-Tracer For Golf」や、スマートグラスの「MOVERIO」にしても、かなり調子がいいですね。掲示板なども拝見していまして、不良が出たなどのお叱りの声も確認しています。こちらの対応も進めています。

―― MOVERIOといえば、今年のCEATECではものすごい行列ができていましたね。かなり並びました(笑)

鈴村氏 実はエプソンとしてCEATECに出展したのは今回が初めてだったんです。今まで展示会はイメージングデバイスなどで出展することが多かったのですが、ウェアラブルデバイスを中心に展示やデモを行いました。そうしたらすごいことになって驚きました。

―― ちょうど「ウェアラブル」というキーワードにかなり注目が集まってきたタイミング、という理由もありそうですね。

鈴村氏 やっぱりお客さまの反応は全然違いますね。CEATECの会場では、特にスマートグラスが一番注目商品でした。

―― これまではケータイやスマホの普及で「時計いらないよね」といっていた層が、またウェアラブルデバイスをつけ始めている感じはあるんですが、そのあたりの変化というのは感じられていますか。

鈴村氏 うーん、どうでしょうね。今はまだ世の中全体がそちらの流れに行っているというよりは、まだブームの先頭の先頭を走る人達の間で、そういう認識ができはじめているという感じだと思いますね。だからこれからじゃないでしょうか。タブレットなんかも、最初の頃はほんとうに珍しくて、「電車の中にタブレット持ってる人がいた!」なんて言っていましたが、それから1〜3年でもう当たり前になりましたしね。

 ウェアラブルデバイスも、そうなるんじゃないかという雰囲気は今感じます。もう2〜3年すると若い方などは、間違いなくウェアラブルデバイスに行くでしょう。普通の腕時計をしている人が「フォーマルでまじめですね」なんて言われてしまう時代になるかもしれません(笑)

エプソンのルーツはウェアラブルにあり

―― エプソンがウェアラブルデバイスを手がける、というのが意外だと思われる方も多そうです。

鈴村文徳氏
「エプソンのルーツはウェアラブルデバイス」と話す鈴村氏

鈴村氏 確かにそうかもしれません。エプソンというと、プリンタというイメージが強いと思うんですが、プリンタだけじゃないんです。

 新規領域への挑戦として、2011年の初代MOVERIOからウェアラブル市場に参入していますが、実は1969年に発売した世界初のクオーツウオッチ「セイコー クオーツアストロン 35SQ」を初め、テレビ付きの腕時計「テレビウォッチ」(1982年)、リストコンピュータ(1984年)、GPSとカメラが付いた電子手帳「ロカティオ」(1999年)など、すでにいろんなものを世に送り出してるんです。

 ただ、どれもちょっと時代より早すぎて、うまくいかなかったというのが正直なところなんですが(苦笑)。でも、そこから分かっていただけるのではないかと思いますが、エプソンのルーツは実は「ウェアラブル」なんです。「省・小・精の技術」といって、当社のコア技術は精密加工技術にあります。小さくするのが得意なんですね。ここへきてようやく市場が本格的に立ち上がってきましたから、何度めの正直か分からないくらいですが、これまで磨いてきた技術を、商品に注ぎ込みたいと思っています。

―― 確かにいろいろありましたね。やっと時代が追いついた、だから改めてウェアラブルデバイスにチャレンジされたということですね。

鈴村氏 しかも、センシングデバイスなどの技術を全部自社で持っているというのが強味なんです。もちろんソフトウェアの開発も含めてです。デバイスを集めてきて組み立てるだけでなく、デバイスそのものを持っていて、企画設計から製造販売まで垂直統合でできる。そういったものを自分たちで商品として組み上げて、エプソンブランドで商品化できます。

 そういう点では、ウェアラブルという領域は、競争優位性という観点で見ても、非常に我々の向いています。また、これからの世の中、健康に対するお客様のニーズが非常に強まっていきますから、そういう意味でもマッチしているだろうと考えています。

―― ロカティオをリリースした10年以上前と比べて、ユーザーのマインドの変化というのは感じられますか。

鈴村氏 そうですね。あの頃は本当に新しもの好きの、ごく一部の人が興味を示す商品でした。ですが、今はもう本当にお客様の裾野が広がりつつある。その市場環境の違いというのは感じます。

 それともう1つは、スマートフォンの普及により、連携して自分の体の情報をいろいろな角度で知ることができるようになったこと。スマートデバイスと連携していろいろ情報を教えてくれる。そういったところも今も環境の違いというところではあるんじゃないかなと思います。

Apple Watchのようなスマートウオッチとの位置付け

―― 時計メーカーさんに伺うと「手首は一等地である」と口をそろえておっしゃいます。手首といえば、2015年は「Apple Watch」のようなスマートウオッチも登場してきます。活動量計は知らない人でも、Apple Watchは聞いたことがあるというくらいなので、登場すれば当然一等地の奪い合いになると思います。手首に付けるデバイスであるPULSENSEは、そこでどういうポジションを取っていこうとお考えですか。

鈴村氏 おそらくApple Watchを使う人は増えるでしょう。すべてのお客様をエプソンの商品で、というわけにはいかないですよね。身に付けるものですから、楽しく使えるものがいい人、ファッショナブルなものがいい人など、いろいろな価値観があり、さまざまな選択肢があります。

 その中で、PULSENSEの強味は精度だと思っています。自分の健康をより正しく知りたいっていうニーズって当然出てくると思うんです。激しい運動をしたときでも正しく脈がとれる。あるいは、睡眠の状態も正しくとれる、というのがPULSENSEの強味だと思っていますから、精度を追求されるお客様が我々としてのターゲットになっていくと思います。そういうお客様に対して、他社さんより正しくフィードバックできる、特徴のある商品を出していくことになると思います。

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